前回の記事⑥からの続きです。
今回の記事では、増税派の論拠の一つである
基礎的財政収支(プライマリーバランス)について述べてみたいと思います。
☆基礎的財政収支(プライマリーバランス)の健全化
以下、「SMBC日興証券 初めてでもわかりやすい用語集」から転載します。
「プライマリーバランス(Primary Balance)とは、国や地方自治体などの基礎的な財政収支のことをいいます。一般会計において、歳入総額から国債等の発行(借金)による収入を差し引いた金額と、歳出総額から国債費等を差し引いた金額のバランスを見たものです。プライマリーバランスがプラスということは、国債の発行に頼らずにその年の国民の税負担などで国民生活に必要な支出がまかなえている状態を意味します。逆に、プライマリーバランスがマイナスということは、国債等を発行しないと支出をまかなえないことを意味します。」
ざっくりと分かりやすく簡潔に言うとすると、
国の税収に対して支出(歳出)が多くなってはダメで、税収の範囲内で国の運営ができていれば、プライマリーバランスが健全である、ということです。
近年の日本のプライマリーバランス(以下PBとします)の推移を見てみましょう。
「世界経済のネタ帳」より転載します
上のグラフを見ると、一時期はPBが黒字でしたが、ここ20数年はずっと赤字が続いています。
そして政府は国のPBを2025年までに黒字化することを目標にしています。
このPBについて三橋貴明氏は、「財務省が日本を滅ぼす」の中で以下のように述べています。
「財政健全化の定義は、PB黒字化でも、政府の負担削減でもなく、政府の負債対GDP比率の引き下げである。政府の負債÷名目GDPで計算される比率が、低下していくことこそが『財政健全化』なのである」
「問題になるのは名目GDPの成長『額』と、PBの赤字『額』との関係である。
財政健全化である『名目GDP成長額>PB赤字額』となるためには、
⑴名目GDPを増やす
⑵PBの赤字額を減らす
の、いずれかを選択する必要がある。」
「⑴の名目GDPの増大を目指すと、国民の『所得』が増える。つまりは、国民が豊かになる。
⑵のPBの赤字額の減少を目指すと、日本経済がデフレ化し、国民が貧困化する。政府が支出を削ると(もしくは増税すると)誰かの所得が減るため、統計的に必ずそうなる。
国民の所得が減る、つまりは名目GDPの伸びが抑制されると、政府の負債対GDP比率はかえって悪化してしまう」
三橋氏は、国がPBの黒字化を目指すことが、、政府支出が抑えられたり、または増税によって収入を増やそうとする為、かえって国民の所得が減る弊害を述べています。
そして、「政府の負債÷名目GDPで計算される比率が低下していくことが財政健全化」だとして名目GDPを増やすことを主張しています。
名目GDPが増えれば、国民は豊かになり、かつ財政も健全化されるからです。
続けて三橋氏は以下のように述べています。
「ちなみに、過去に日本政府が数年続けてPBを黒字化した時期がある。すなわちバブル期だ。1985年から1992年にかけ、日本のPBは見事に黒字化した。(中略)バブル景気により税収が激増し、景気対策も不要になれば、それはもちろんPBは黒字化するだろう。
財務省が本気でPBを黒字化したいならば、政府の財政拡大と減税を繰り返し、景気を過熱させ、『超』好景気にすればいいだけの話だ。
財務省の官僚が本気でPB黒字化を目標に掲げるならば、日本経済に好景気をもたらすよう、財政拡大路線を認めるべきなのだ。それを認めないというのであれば、結局のところ、財務省はPB黒字化すら望んでいないという結論にならざるを得ない。」
2017年に内閣が閣議決定した「骨太の方針2017」では、単に増税や予算カットにより、政府の負債を減らすのではなく、「債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指す」という財政目標が明記されました。
債務対GDP比率(政府の負債対GDP比率)の引き下げであれば、日本人が豊かになる、つまりは「GDPを増やすこと」で財政目標を達成できる。政府の債務が減らなかったとしても、GDPが拡大すれば、債務対GDP比率は下がるのですが、問題の「プライマリーバランス黒字化目標」は骨太の方針に残ってしまいました。
緊縮路線の弊害を三橋氏は以下のように述べています。
「PB目標は日本経済の喉元に刺さった『毒矢』あるいは『毒針』だ。この毒針を抜き取ることなしで、日本がデフレ脱却することは著しく困難である。
何と言ってもPB目標とは『国債償還費、国債利払い費を除いた政府の歳出を、政府の歳入(税収、税外収入)の範囲内に収めなければならない』という、理不尽な方針なのだ。
PB目標があると、日本の場合は高齢化で社会保障費が自動的に増えていくため、『その分、他の支出を削るか、増税する』という話になり、延々と緊縮路線が継続してしまう」
つまりPB黒字化目標にこだわると、緊縮路線になる為、必ず政府支出を抑え、また増税路線になり、デフレスパイラルから抜け出すことができないということを三橋氏は危惧しているのです。
それにしても、政府や財務省からはGDPを成長させ、国民の所得を増やし、その結果として税収を増やそうという意見がほとんど聞かれないような気がします。
産経新聞記者の田村秀男氏が、「消費増税の黒いシナリオ」の中で以下のように述べています。
「結局のところ、この20年で失われたのは経済に対する基本的な理解ではないかと私は考えます。経済というのは成長するものだという哲学がなくなってしまったのです。
経済が成長するから世の中が良くなるという基本的な考え方をどこかに置き忘れてきてしまった。朝日新聞の記事を読んでいるとその根底に『経済は成長しなくていい』という主張があるように思います。(中略)
みんな質素倹約で、慎ましく暮らせば、それでいいじゃないかというわけです。これは日本の経済をよく知らない知識人が陥りやすい考え方です。朝日新聞だけでなく、日経新聞もいつのまにか経済成長の必要性を言わなくてなってしまいました」
⑧に続きます。