「効果的な休養研究所」気分転換&ストレス解消編
今回は映画化もされたことのある、スティーブン・キング原作のホラー小説「ミザリー」を紹介します。
以下あらすじです。
【流行作家のポール・シェルダンは雪道の中、クルマを走らせていたのですが、雪にタイヤを取られてスリップしてしまいます。
目が覚めるとポールは、アニーという女性の家のベッドに寝かされていました。そして両足は怪我をしていたのか包帯が巻かれており治療されていたのです。
どうやらクルマで大事故を起こしたポールを、たまたま通りかかったアニーが救出してくれたようなのです。
ポールは自分を助けてくれたアニーに感謝するものの、ふと気づきます。
そもそも、病院に連れて行かれてないのはなぜか?交通事故なら警察とかも関わってこないとおかしいのではないか?
実はアニーは、ポールの小説の大ファンだったのです】
自分は映画化されたのをかなり昔に観ました。一部で言われていることですが、スティーブン・キング原作の映画は、正直あまり面白くないと言われており、(シャイニングのみ高評価)
最初はどうかと思ったのですが、主演女優の怪演もあり演出も良くすごく面白かったのです。
「ミザリー」は設定自体が面白いため、原作も面白いのではないかと思い読んでみたら、映画では描ききれなかった部分とかもあり、かなり凄いホラー小説だと思いました。
ちなみに、小説「シャイニング」は映画の出来とは真逆でつまらないので、読まない方がいいと思います。
ところで、アメリカ人が書いた本を読んだことがある人は知っていると思いますが、ページ数がやたら多いのが特徴かと思います。割とダラダラと周辺状況を書きこむために、どんなジャンルの本も長い傾向があります。
「ミザリー」もご多分に漏れずに500ページを超えています。ですがこの長さが2時間映画とは違う面白さを読者に提供してくれます。
またちょっと紛らわしいのですが『ミザリー』とはポールがシリーズものとして執筆しているミザリーという女性が活躍している小説のことです。
作中、ポールはアニーがなぜ警察や病院に連絡を取らずに、勝手に治療し自宅に留めているかを察します。偏執狂的な資質のアニーは、どうも自分が大ファンだったポールを自分が助けてあげたことを喜んでおり、単純にポールと親しくなりたいという期待があるようなのです。(この動機で警察や病院に連絡しないのは偏執的です)
ポールにとって運が悪かったのが、シリーズものとして書いていた『ミザリー』の最終回原稿を自分の鞄に入れていたことです。
アニーは小説『ミザリー』の大ファンであり、まだ書籍化されていない『ミザリー』の最終原稿をポールの許可を取って読み始めます。
ところが、小説『ミザリー』の展開が自分の思うような展開でなかったことから、アニーは激怒します。(この時点で自己中女だということがわかると思います)
ポールは両足が骨折しており、ベッドに寝たきりです。また電話などの連絡手段も自分が寝ている部屋にはありません。
そして偏執女のアニーは、ポールが書いた『ミザリー』の結末に激怒してしまいます。
ここからポールの気の遠くなるような長い長い戦いが始まるのです。
アニーは、他人が自分の思い通りに動かないと癇癪を起こすタイプであり、「私の思い通りに動かないアンタが悪い」という思考の持ち主です。
そしてポールは、アニーから小説『ミザリー』の書き直しを強要されます。
ひとりでは食事の用意もできず、足の治療もできず、トイレも行けないポールに拒否する選択肢はありません。
ここからが映画では描ききれない細かい部分なのですが、ポールからすれば小説『ミザリー』を一旦終了させてしまった為に、アニーから脅迫されて書き直しを強要されても、モチベーションも湧かなければ、別の展開がすぐに思いつく訳ではありません。
しかも偏執女のアニーを満足させるような展開なら尚更です。
映画ではアニーを演じた女優の暴力的シーンも出てくるのですが、原作の方では映画版の5倍くらいの残酷描写があり、ポールは泣く泣く(作中本当に泣きます)小説『ミザリー』の書き直しを始めます。と同時に、いかにアニーの家から脱出するかも考え始めるのでした。
本作は映画にない魅力として、活字によるポールの心理が克明に描写されます。
いかにアニーから逃れるか?一度終了した『ミザリー』をどう書き直せばいいのか?
そして、読む側としてもポールに共感し、ポールの脱出方法をポールと一緒に考えるようになります。
逃げるだけではなくて、何かの武器を持って反撃すればどうだろうか?
何とか電話のある部屋まで行き、外部の人に助けを求められないか?
それともアニーと仲良くなったフリをして、相手が油断した隙に?
ポールもありとあらゆる方法を考えますが、アニーはただ偏執狂的なだけではなく、意外に頭もよく、体力もあり、自分がポールを監禁していることを警察などにバレないように緻密に手を打っているのです。
この小説の凄いところは、アニーのキャラクターを徹底的に作りこんであるところです。
おそらくスティーブン・キングは、このような偏執狂的なファンを精神医学的にも研究したと思われます。
作中ポールがアニーを分析する場面があり「アニーにとっては世界は3種類の人間しか存在しない」という結論に達しますが、もの凄く納得してしまいました。
とにかくポールは、小説『ミザリー』の書き直しをしつつも、様々に脱出を試みるのですが、その過程でアニーの恐ろしい過去も知ってしまい、最終的に自分がどういう運命を辿るかを察します。
この原作を読んでいて、本当にポールに感情移入してしまいました。
無理矢理、小説『ミザリー』の続きを書かされ、作家として作品を創造するという行為を自らに課しつつ、人間としても最後まで脱出を諦めないポール・シェルダンには、フィクションとはいえ惜しみない拍手を送りたくなりました。
そしてフィクションとはいえ、人間は極限状態に置かれてもマルチタスクは不可能ではないと思わされました。
この小説「ミザリー」という書籍は、映画では難しい心理描写を、活字の力でこれでもかというくらい、読者の目の前に叩きつけてきます。
それはあたかも作中ポールがタイプライターに打ち込む際に怨念を込めたようなパワーにも似ているでしょう。
ホラー小説としては傑作だと思います。
*小説の解説によると、スティーブン・キングがあるファンにサインを求められたことがあったのですが、後にそのファンがジョン・レノンを殺した男と同一人物だったと知って驚愕したそうです。
気分転換点90点+ストレス解消点95点