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『2017年11月のある夜、深夜の電話の音で私は目を覚ました。
こんな時間にいったい誰だろう。私はこわごわと電話に出た。
「タクシーに乗って、ただちにモンゴルキュレ県の市内に向かえ」と男の声で指示された。
彼女、サイラグル・サウトバイ氏は不吉な思いにかられながらも、恐怖心から指示通りに行動する。
1時間ほどで指定された場所に到着した。
すでに深夜の12時、電話で言われたとおり、街灯の下で携帯電話を取り出し、言われたアドレスに「到着した」とメールした。
その時パトカーのライトが見えた。ドアが開くと自動小銃を持った4人の警察官が飛び出してきた。数秒後彼らは私の袖をつかみ頭巾を被せるとパトカーの後部座席に押し込んだ。
部屋に入ると出し抜けに頭巾をとられた。
机の向こうには様々な肩章がついた軍服を着た中国人の士官が座っていた。でっぷりと超えた男性で年齢は40代後半、中背だがカエルに似た横広の醜い顔に眼鏡をかけていた。
「ここは再教育収容所で、お前には中国語の教師として働いてもらう。」』
そしてサイラグル氏は「失敗したり、規則に違反したりした者は死刑に処する」と明記されている書類に震える手でサインしたのだった。
この日から約4ヶ月、彼女は、ウイグル人や、ウイグル自治区に住んでいて、イスラム教を信仰しているカザフ人など約2500人が収容されている強制収容所で働くこととなる。
以下は、サイラグル氏が体験した強制収容所の実態である。太字は「重要証人 ウイグルの強制収容所を逃れて」(サイラグル・サウトバイ著)より抜粋。細字は筆者。
サイラグル氏は収容所で自分を指導する中国人から日々の授業内容を教えてもらう。例えば「中国の習慣や伝統に関するもの」「中国共産党全国代表大会で可決された決議案の抜粋」等。
ところがそれに関する資料の教室への持ち込みは、必要最小限しか許されず、事前にかなりの部分を暗記させられる。情報が収容所の外に漏れないように徹底的に管理されていたのである。
『短時間のうちに多くの話を頭に詰め込んだせいで、極度の緊張と不安に襲われた。「細かいことを忘れないようにしなければ」と懸命になっていた。失敗してしまえば悪臭を放つ檻の中に、私も動物のように閉じ込められてしまうだろう。他の事は必死になって遮断し目の前の作業だけに集中した。
部屋に入ったその瞬間、56人の生徒が足首に巻かれた鎖を鳴らして立ち上がり、「準備完了しました」と叫んだ。全員が青いシャツを着ておりズボンを履いていた。頭は剃られて肌は死体のように白い。
黒板の前に直立不動で立つ私の両脇には、自動小銃を持った2人の警備員が立っていた。全く予期していない光景を目の当たりにして、私は衝撃のあまり一瞬よろめきかけた。黒い瞳、切断された指、体の至るところにできたアザ、墓場から蘇ったばかりの生ける屍の集団だった。
どの顔にも恐怖が刻まれていた。目には全く生気がなく、希望の光が見当たらない。私はショックで立ちすくみ口元が震えた。泣きたい気持ちでいっぱいだった。「サイラグル、絶対に失敗してはダメ。失敗すればあなたもあの椅子に座ることになるのよ」と私は心の中で叫んでいた。』
授業中は、各自に習ったことを暗唱させ、よくできた者にはポイントが加算され、できの悪い者は降格となり別のフロアに移動させられた。
そして、次は「洗脳強化」の授業である。
『唱和は延々と続けられた。党を礼賛し、その舵取り役の習近平を讃え、中国を賛美する。集団全体がまるで1つの口になったように全く乱れのない唱和だ。「党がこの命を与えてくれたから私は生きている」「党が存在しなければ新しい中国はない」と誰もが叫んでいた。党の計画は、私たちを新しい人間に作り変え、一人一人が心からそう信じるようになるまで洗脳することだった。「党こそすべてである。習近平を除いて神はいない。中国こそ世界最強であり、中国をおいて他に全能の国はない」』
午後は国家と党歌を徹底的に覚えさせられる。その次は2時間座ったまま「自分の過ちを反省」させられる。実際には「祈りを捧げていた」とか、「中国人に対して批判的な考えを持っていた」など些細な理由である。
ちなみにサイラグル氏は、午前の授業中、教室の中に自分の見知った顔を見つけ、少しの間呆然としてしまう。そしてそんな彼女の変化を中国人は見逃さずに、夕方に厳しく詰問されることになる。
その時は、彼女はなんとか適当なウソでごまかしたものの、次の日、教室には「見覚えのあるウイグル人」の姿はなかったのである。
『午後8時から10時まで、収容者は「自分の罪を心から受け入れる」ために檻房に入れられ続ける。それは自分が犯した罪に徹底して向き合い、押し殺した声で自己批判を何度も繰り返すためだった。「自分は神に祈ったから犯罪者になったのだ。私は神に祈ったから犯罪者になったのだ。私は神に〜」壁に向かい手を上に掲げてレンガの壁に当てる。その手には手錠をかけられたままだ。この姿勢で2時間もの間、狭い檻房の中でひしめきながら全員が、「私は犯罪者だ」と唱え続ける。』
『午後10時から深夜12時までの2時間、すべての収容者は檻房の床に置いたノートの前にかがんで、自分が犯した罪の告白文を書いていた。このシステムでは「汚らわしい思想から解放された」と最も説得力がある演技をしたものが報われるようになっている。とりわけ重要な一文は、「私はもうイスラム教の信者ではありません。神など既に信じてはいません」で告白分には必ず書いておかなければならない。』
ある日、サイラグル氏は新しく収容所に連れられた大勢の人の中から、80代の羊飼いの老婆を見つける。
老婆はサイラグル氏と目が合うと走り寄って、取りすがりながら「お願い、あなたはカザフ人ね、だったら助けて。無実なんだよ。私は何もしていません。」
サイラグル氏はびっくりしたものの、つい老婆の身体に腕を回してしまっていた。
すると彼女はあっという間に共同謀議の疑いで拷問されることになったのである。
『私を拷問する2人には、人間性や同情心、あるいは人間としての感情そのものを持ち合わせていなかった。鎖に繋がれた狂犬病の犬のようだった。残忍で凶暴を極め、私たちを人間として見ておらず、実験動物やモルモットのように扱っていた。電気ショックのせいで私は意識を失い続けた。人をさいなむことで、2人がどれほど快感を覚えているのかは明らかだった。彼らは笑いながら私を苦しめ続けた。痛みで泣き叫ぶ私の声を聞けば聞くほど、マスクをしていない方の男の顔は喜悦で輝き、2人はますます狂ったように私に拷問を加えた。』
ある日、100人の収容者がひとつの部屋に集められた。そこでまだ20歳くらいの、入所して間もない若い娘が、全員の前で自己批判をさせられた。
すると中国人が娘に床に横になるように命じ、娘を100人が注視する中、中国人の看守達が次々とレイプしていったのである。
泣き叫び、助けを求める娘だったが、誰一人凍りついて動けない。
それでも何人かの収容者が立ち上がって抗議すると、中国人はそういう人を次々と連れ去っていく。
しかも、娘がレイプされている場面を見ないように俯いている人達をも、連れ去って行ったのだった。
(この場面は、書籍には詳しく描写されてますが、とてもブログには転載出来ませんでした。)
これが「国連常任理事国」で「世界第二位の GDP」を誇り、2022年に平和の祭典である「冬季オリンピック」を開催する中国の実態である。
ともあれ、この世の悪夢のような収容所での出来事をサイラグル氏はどのように捉えたのか。
『死ぬという選択肢は私にはなかった。少なくとももう一度子供たちの顔がみたかったし、何とか収容所を抜け出して、ここで行われている残虐な行為を外の世界に伝えるのだと固く心に誓っていた。
ひと月またひと月と私を生かし続けてくれたのは、東トルキスタン(ウイグル)で繰り広げられているおぞましい物語の実態が明らかになれば、直ちに自由主義世界で激しい抗議の声が起こるという希望だった。
その思いが私を突き動かし続けていた。』
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ウイグル強制収容所の実態を2回に渡り紹介したが、もっと詳しく知りたい方は、ぜひ下記の4冊のどれか1冊でも読んでほしいと思う。
○「命がけの証言」(漫画)清水ともみ著
○「ウイグル・ジェノサイド」ムカイダイス著
○「重要証人 ウイグルの強制収容所を逃れて」サイラグル・サウトバイ著
前回の記事と合わせて、ウイグル強制収容所の実態の一部を紹介したが、実はこのように外の世界に漏れた収容所は「一般管理」のカテゴリーに属している。
他には「一般管理」よりも厳しいと言われている「厳格管理」「強化管理」のカテゴリーに属する収容所が存在し、これらの二つの収容所に入るとほとんど生きては出られないと言われているのだ。
つまり殺すことを目的とした「絶滅収容所」なので中で何が行われているのかは誰にも分からず、情報が外に漏れることもないのである。
また収容所には安価な製品を製造する強制労働の収容所も存在する。
2020年、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が、新疆ウイグル自治区において強制労働によって生産されている素材や製品と、それに関与している世界の企業の調査報告書を発表した。
日本の企業では、日立、ソニー、TDK、東芝、京セラ、三菱電機、ミツミ電機、シャープ、任天堂、ジャパン・ディスプレイ、無印良品、ユニクロ、しまむら、パナソニックなどがサプライチェーンの中で関与している疑いがあると指摘された。
その報告書に基づいて、国際人権NGO組織ヒューマンライツ・ナウが各企業に今後の取り組みについて質問した結果…
○ある程度前向きに取り組む姿勢が見られる企業
○新疆企業との取引は否定しているものの、調査が不十分だと思われる企業
○どのように調査を行ったのかわからないので、評価が難しい企業
→・任天堂、ジャパン・ディスプレイ
○新疆企業と取引をしていると思われる企業
→・無印良品…ネット上では「新疆綿」として販売を続けている。
・ユニクロ…取引関係を否定しているものの、中国企業2社のHPではユニクロと取引関係にあると記載されている。
・しまむら…そもそも調査になっていない
○100%以上関与をしているとしか思えない企業
→・パナソニック…2回の質問状、電話での問い合わせも完全無視❗️
今回、あらためてASPIの報告書をつぶさに読むと、名前の知れた世界的企業が少なくないことに驚かされた。
例えば…Microsoft、Google、Amazon、 Apple、SAMSUNG、BMW、NIKEなど。
ちなみに、BMWはナチス政権下のドイツでも収容所のユダヤ人を労働力として強制的に働かせており、現代も同じようにウイグル人を利用している点は非常に悪質である。
*上の写真は第二次大戦時、BMWの工場でユダヤ人を強制労働させている場面
国家が全体主義体制のもと特定の民族を迫害し、その国の大企業が同調して、奴隷のように一民族を扱う点は、ナチスも中国共産党も同類なのである。
これらの企業が今後どのように新疆企業との関係を是正していくのか、ウォッチしていかなければならないが、消費者としてはユニクロの服を買わないなどはできるかもしれないが、全ての企業の製品を一気に不買運動をするのは難しいかもしれない。
ただ、段階を追って取引先、サプライチェーンの見直しをすることは、企業としては可能なのではないだろうか。
例えば、Appleの社長、ティム・クックには2021年、特別ボーナスが800億円!入っているのである。
そのうち、750億円くらいを新疆企業との取り引きを止めて、他の国に移す費用に回すことは出来ないのだろうか。
膨大な利益を上げている他のビッグテックにも、それは可能なのではないだろうか。
日本企業であれば、工場を日本に移せば、政府が補助金を出すなどしたり、または国民がそういう企業を応援しやすいように、同時に消費税を廃止して製品を買いやすくするなどの施策は可能なのではないだろうか。(特定の企業だけ消費税をかけないという意味ではありません)
一企業が出来ることは限られているが、国も真剣に人権問題に取り組むならば、方法はまだまだあるのである。
とにかく中国としては「人件費が安い生産地」と「14億の中国人の消費者」の二つを自由主義圏の人達の目の前に札束としてぶら下げて、その欲望を煽り、身動きが取れないようにし、かつ自在にコントロールしているのである。
筆者はこの武器は、ある意味核兵器に匹敵すると考える。なぜなら核兵器も欲望も使い方次第で、人の心と行動をコントロールできるからだ。
それにしても、ここ数年ようやくウイグルの強制収容所が世間でも話題になり、筆者としては「ようやく、ここまで来たか」と感じる。
だがここからが本番である。
日本にはまだまだウイグル人が中国に弾圧されていることを知らない人が大勢存在する。だからまず実態を知った人が、周りの人達に伝えることが一人の人間としてやらなければならないことだと思う。
そして、今こそ全世界的に中国包囲網を築くべき時だ。
その方法としては、2022年の2月に開催が予定されている北京冬季オリンピックを「そもそも人権弾圧を行なっている国に平和の祭典を主催する資格がない」と糾弾し、日本も含めて主要な先進国はオリンピックをボイコットするのだ。
現在でも「外交的ボイコット」と称して、選手のみが参加し政治家は訪問しない、上辺だけのボイコットを表明している国がいくつかあるが、こんなのは生ぬるい。
選手だけ参加出来れば、大会としては成り立ってしまうので、選手もボイコットする完全なボイコットをすべきだと思う。
そして、同時に手を打つべきなのは、ロシアの先進国首脳会議・G8への復帰である。(現在はG7、米・英・仏・独・日・伊・加でロシアが抜けている)
中国としては、もし北京オリンピックを機に中国包囲網を作られた場合を想定し、自分達が最も手を組みやすい国で、かつ他の先進国が困る相手、つまりはロシアと組むのがベストチョイスだからだ。(ロシアは2021年の時点で6000発以上の核兵器を保有している)
なので、北京オリンピックボイコットと、ロシアのG8復帰を同時に進め、中国とロシアを離間させなければならない。
その為に日本はまずロシアに対して、「日露平和条約」を締結すべきと考える。
その次の段階として、昨年の12月にインドとロシアの間で合意された「印露、軍事協力10ヵ年計画」に日本も加わり、将来的に必要になるかもしれない「日・印・露、軍事同盟」の布石を打つべきである。
その上で日本がロシアのG8復帰への働きかけをするのであれば、ロシアも中国と組む選択肢を無くすのではないだろうか。
それらが実現したら、3月以降の台湾と日本の命脈をかろうじて保つことが出来、また今後20年の世界の安定も担保できると考えるのである。
私たちは、まだ未来を変えられる地点に立っている。