8月2日、ナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問した。それに続くかのように14日にはアメリカの議員団5名が予告なしに台湾を訪問。
21日にはインディアナ州知事が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談した。
一連の動きに対して中国は反発。台湾周辺で数日間に渡り軍事演習を実施し、今後も継続していく模様だ。
ペロシ下院議長を初めとしてアメリカの議員たちや州知事はロシア・ウクライナ問題が終息していない不安定な状況下で、なぜ台湾訪問を強行したのか?
その意図を憶測することは今回は控えるが、彼らの行動は確実に中国の動きを活発化させると共に、台湾、尖閣の危機を早めたと言える。
これに関してはスタンフォード大学のオリアナ・スカイラー・マストロ研究員の考察が的を得ていると思われるので、紹介する。
マストロ研究員によると、元々台湾を狙っていた中国は「台湾侵攻を想定した軍事演習」を実施したかったようである。
ただ、何のきっかけもなしに軍事演習を行えば、国際社会からの非難が想定される為に、中国は行動を控えていたと、マストロ研究員は述べる。
そこへペロシ下院議長の突然の台湾訪問である。中国としてはこれを奇禍として、軍事演習を常態化することができた。
また、軍事演習の回数を重ねることにより、台湾を実際に侵攻した場合の軍事行動のブラッシュアップが可能になった。
さらに、軍事演習が常態化されることは、台湾側からすると「いつがシミュレーションか、いつが軍事演習か」の区別がつきづらくなったと言える。
以上のようにペロシらアメリカの政治家たちの訪台は、台湾の危機をより高めたのである。
では、具体的に中国はどのように台湾を侵攻するのだろうか。
以下、日本安全保障戦略研究所による「日米台連携メカニズムの構築」より抜粋・要約したものを紹介する。
侵攻のパターンとしては、実は3パターン想定されている。
①台湾のみの単独侵攻
②尖閣のみの単独侵攻
③台湾と尖閣の同時侵攻
中国による台湾侵攻になぜ日本の領土である尖閣諸島が引き合いに出されるのか?それは、中国にとって台湾侵攻に尖閣は切り離せないポイントだからである。それについてはこのシリーズの③で詳述する予定である。
ともあれ、まずは①の台湾のみの単独侵攻から解説する。
台湾のみの単独侵攻
台湾単独侵攻の場合は、東部戦区部隊を主戦力として、まずは澎湖列島を奪取し、それを侵攻基盤として主に台湾西及び南西方向から戦力を投入して、台湾を孤立させつつ、在日・在韓米軍の介入前に台湾を早期に屈服させ占領することを目的に行われるとみられる。
ただし問題点がいくつかある。
台湾本島には東部戦区が主戦力となり、西南方向から侵攻し、南部戦区が南翼を掩護しつつ攻勢を行なうことになると見られている。その場合南翼の掩護の拠点となる南シナ海の西沙・南沙諸島の軍事基地群は、基地機能としては脆弱であり、かつ敵性国のベトナム、フィリピン、シンガポール、インドネシア、さらにその背後のオーストラリアとグアムの米軍基地に囲まれている為、有事には短時間で制圧されるおそれがある。
加えて、米軍にとってはグアムやオーストラリア、シンガポールの基地群を反攻作戦の基盤として利用できるので、南部戦区部隊としては都合が悪いのである。
また東部戦区部隊を台湾の高雄市正面から投入したとしても、南シナ海、フィリピン正面からの米軍の海空戦力により、攻撃を受けるため高雄市正面からの着上陸部隊への継続補給は困難になると考えられる。
南部戦区部隊としては、台湾侵攻の主戦力である東部戦区部隊を掩護する必要があるものの、原潜(SSBN)基地が所在する海南島の防衛も疎かにできない。
これらの諸要因から、南部戦区部隊の主任務は南シナ海基地群と、海南島の防衛になり台湾本島南西方向からの攻勢への参加は一部戦力に留まる可能性が高いとみられる。
一方で中国にとっては、台湾単独侵攻の場合でも、在沖縄・日本本土・韓国の米軍参加の参戦を阻止・遅延させるため、同時に先島・南西諸島の自衛隊基地及び在沖縄米軍等を制圧する必要がある。もし制圧しなければ、台湾関係法に基づき無傷の在沖縄米軍等による台湾防衛への早期の先制介入を招く可能性が高い。
以上の理由から、中国軍としては、台湾単独侵攻を企図するとしても、台湾北翼と在沖縄・在日・在韓米軍への対処を同時に行わねばならないであろう。
すなわち、台湾単独侵攻は全般態勢と戦略的合理性から見て、成立し難いのである。
②に続く