今回のブログは、YouTube「新日本文化チャンネル桜」で、国際政治アナリストの伊藤貫氏がここ数ヶ月複数回に渡り、アメリカや日本について語ったことの中から、将来の日本にとって重要だと思われることをまとめてみた。
伊藤貫/プロフィール 【1953年東京都生まれ。国際政治アナリスト。東京大学経済学部卒。アメリカのコーネル大学で国際政治学と外交史を学ぶ。その後、ワシントンのビジネス・コンサルティング会社に、国際政治・経済アナリストとして勤務。『フォーリン・ポリシー』『シカゴ・トリビューン』『ロサンゼルス・タイムズ』『正論』『Voice』『週刊東洋経済』等に、外交評論と金融分析を執筆。CNN、CBS、BBC等の政治番組で、外交・国際関係・金融問題を解説。ワシントンに30年間在住】
伊藤貫氏は、今後10数年のあいだに中国がどのように台頭し、それによって日本がどうなるかを5つの段階に分けて述べている。
以下の5つの未来予測のそれぞれについては、筆者がもう少し詳しい情報を加筆した。
ちなみにこれから紹介する5つの未来予測は、日本がいつの時点で消滅するかの未来予測である。
1.2023〜24年頃、イランの核兵器開発が成功する。
2015年にイランと米・英・仏・独・ロ・中の6ヵ国の間で結ばれた「イラン核合意」は、イランの核兵器開発を大幅に制限する為のものだったが、2018年にアメリカが合意の内容に弾道ミサイルの開発規制がないこと等を理由に離脱。
合意の実効性が確保されないまま、イランは核兵器を開発できるとされるウラン濃縮活動を行なっており、今年の6月時点では濃縮度60%を達成している。濃縮度が90%以上になれば核爆弾が製造可能になり、おそらく開発成功は2023〜24年頃と見られている。
米バイデン大統領は今年7月イスラエルの放送局チャンネルで「(イランの核武装を阻止する為に)アメリカは、国力のあらゆる要素を行使する用意がある」と発言した。これはイランに対しての事実上の武力行使宣言である。
伊藤氏はもしアメリカとイランが戦争になった時、同時期に中国が台湾や尖閣を侵略した場合、「イランで手いっぱいなアメリカは、台湾や尖閣を助けることはできないだろう」と予測するのである。
2.2027〜2030年、中国の東アジアにおける通常戦力がアメリカ(米インド太平洋軍)を凌駕する。
↓下記の画像の水色の部分が米インド太平洋軍の管轄範囲
↓1999年の時点では米インド太平洋軍が中国の軍事力を上回っていた
↓2025年の予測。中国軍が米インド太平洋軍を逆転し、かなりの差をつけている
米インド太平洋軍前司令官のデービッドソン氏が、2021年3月米議会の公聴会で中国の台湾侵攻の時期について発言した。
「2027年は、習近平国家主席が3期目の任期を終え、4期目を迎える時。その政治的なダイナミズムを考慮すれば、中国の(台湾への)脅威が明白になるのは6年以内(〜2027年)だと思います」
デービッドソン前司令官は中国軍に対して、様々な対応を考えているようだが、中国軍の戦力は2025年頃には米インド太平洋軍を上回っているという予測がされている。
伊藤貫氏によると、「2025〜27年頃に中国軍が米インド太平洋軍の戦力を上回った時、アメリカは中国の台湾・尖閣などへの軍事行動に対して、手を出すことはできないだろう」という米軍関係者からの情報を得ているのである。
3.2028年頃、中国とロシアを合わせた経済規模がアメリカを抜く。
2022年の中国+ロシアのGDPは2180兆円。アメリカのGDPが2500兆円。その差は320兆円。
中国とロシアのGDP成長率を3.5%とし、アメリカを3%として、2028年まで計算するとその差はそれほど縮まらずに、まだ300兆円以上の差がついた。
各国の経済成長をどう見るかで、数字は大きく変わるものなので、別の計算をすると違う結果が出るのかもしれない。
2年前の記事だが、英国の調査研究機関「経済・ビジネス研究センター」が公表した世界経済に関する年次報告書で、中国の経済規模が2028年に米国を抜き、世界一になるとの予測を示している。
そして、現時点でアメリカの軍事予算は、GDP比3.8%であり、中国は2%である。もし中国がアメリカのGDPを抜いて、軍事予算を3.8%以上にすれば、当然この時点で中国はアメリカ以上の軍事予算を使うことができるのである。
ということは、中国のGDPがアメリカを上回ったと同時にアメリカは中国に対して尻尾を巻く可能性が高いということなのだ。
またロシアの経済規模自体は高くはないものの、核兵器の数はアメリカをかなり上回っている為、経済という要素を入れなくても現時点でロシアと中国が本格的に手を組みアメリカと対峙するのであれば、アメリカ一国ではかなり厳しいと懸念されている。
4.2030年代〜サミュエル・ハンチントン(「文明の衝突」の著者)の5つの予言
*サミュエル・ハンチントン/プロフィール
【1927年アメリカ・ニューヨーク生まれ。アメリカを代表する国際政治学者。ハーヴァード大学教授や国家安全保障会議の安全保障政策担当のコーディネーターなどを務めた。】
①アメリカが目指している世界の一極化は失敗
②米国内の人種対立は悪化
③プロテスタント倫理とアングロサクソン的政治文化を失ったアメリカは国家のアイデンティティを失い、不安定になる
④アメリカは中国との覇権闘争を続ける長期の意志力、精神力を失う
⑤従ってアメリカは東アジアから撤退。結果日本は中国の属国になる
伊藤貫氏は、ハンチントンの予言を紹介した上で、「僕もまったく同じ意見です」と述べた。
総合国力とは一国における「経済力、科学技術力、文化力、指導者、政治的影響力、国際同盟の強さ、軍事力、国家としての影響力」などを総合したものである。(*明確な指標などはない)
米誌「USニューズ&ワールドレポート」2021年版ではアメリカが1位、中国が2位となっている。
筆者も独自に考えた指標を調べて、アメリカと中国の総合国力を簡単に比較してみた。
◉科学論文数
1位中国66万件
2位アメリカ45万件
◉世界大学ランキング
アメリカ→トップ10に8校ランクイン
◉世界企業時価総額ランキング
アメリカ→トップ10に9社ランクイン
中国→15位、16位にランクイン
◉本の出版点数ランキング
中国→44万点
アメリカ→30万点
◉世界幸福度ランキング
アメリカ→16位
中国→72位
◉軍事予算
中国→29兆円(GDP比2.0%)
以上簡単にアメリカと中国の総合国力の目安になる分野を比べてみた。
「USニューズ&ワールドレポート」のランキングでは2020年が中国が3位、2021年が2位に上っているのだけ見れば2035年には中国がアメリカを抜いていてもおかしくない。
ただ筆者が調べたデータを見る限りでは2035年の時点でも、総合国力で中国がアメリカを抜くのは少し難しいと感じる。
特に大学と企業の分野では、自由な精神が守られていない場では雨後の筍のように新しい会社を作ったり、自由な発想で学問を進めるのは難しいと思うのである。要するに現在の中国のように情報取得や、言論に制限がかけられたりする国では成長が頭打ちになるのではないかと予測する。
とはいえ中国の人口はアメリカの4倍もあるので、その人口を上手く活かしつつ、もともとの強みである商売上手(ずる賢い面や投機的な面も含む)を合わせれば、経済力はもっと伸びる可能性がある。
中国共産党は、総合国力自体よりも数字上の経済力のみ伸ばして軍事力に転嫁する戦略に優先的に力を入れているように筆者には見える。
何より軍事力の基礎は経済力だからである。
結論としては現在の中国の国際社会での影響力の大きさから言えば、2035年には総合国力でアメリカを抜いていてもおかしくない。もし抜いてなくても数字上の経済力ではアメリカを凌駕している可能性はあるので、同時に軍事力もアメリカを抜いていることになる。
そういう意味で2030年代は中国がアメリカに代わって世界の覇権を握る条件は整うのではないかと予測できるのである。
以上、国際政治アナリスト伊藤貫氏の5つ未来予測を筆者の調べた情報も加筆して紹介した。
4番目のハンチントンの予言のみ、アメリカ国家の衰退が原因になるが、それ以外の予測は全て「中国の軍事力、または総合国力がアメリカを相対的に上回る結果、アメリカは日本を守ることができない」という結論になっている。
伊藤貫氏は長年ワシントンに在住しているが、本当に日本の政治状況を憂いている。
では、どのようにすれば日本は消滅せずに存続できるのか?
伊藤氏は2020年に出版した著書「歴史に残る外交三賢人」の中で「現在の日本外交の苦境を理解するのに最も役に立つのは、ドゴールの外交思想と国家哲学である」としてドゴール(1890〜1970・フランス第18代大統領)の外交思想を紹介している。
以下「歴史に残る外交三賢人」より
【ドゴールにとって、国際政治の最も基本的な行動主体は常に国民国家であり国際組織や集団的安全保障機構や同盟関係ではなかった。
彼は国民国家だけが歴史的にも道徳的にも最大の価値と永続性を持つと考えていた。
これに対して国際組織や集団的安全保障機構や同盟関係は歴史的に短い期間の利害関係を形式化したものに過ぎず、国際政治の条件が変わればあっさり有効性を失うものでしかなかった。
ドゴールは「自国を占領した外国(例:アメリカ)の軍隊の統治行為にせっせと協力して自分たちの利益と安全を確保をしようとする」などを長期間続けると国家と民族の一貫した廉潔性や、正統性、責任感を喪失してしまう。国家の意思決定能力が麻痺してしまう。そのような国家は知的精神的な不毛国家となる、と確信していたのである。
ドゴールは国際政治を多極化しフランスの自由と独立を回復するためにはフランス独自の核抑止力が絶対に必要だと確信していた。】
そしてフランスはドゴール大統領の号令のもと1957年に核開発に着手し、1960年に原爆実験を成功させたのである。
伊藤貫氏は10年以上前から、日本にとって最もコストが安く、かつ防御的な兵器は、原子力潜水艦に核ミサイルを搭載することだと主張していた。地上に設置されている核ミサイルは敵から狙われやすいが、原子力潜水艦だと海中深く潜航し続けられる為、抑止力としては効果が高いという。
ちなみに最近少し話題になった核シェアリングなどは、アメリカの「ライバル国に核を持たせない為の嘘」と一蹴するのである。
伊藤貫氏のYouTubeの動画は、一回が1時間と長いものの、一つひとつが大学で国際政治学の講義を受けているような気になるくらい魅力に溢れている。ぜひ視聴をお勧めする。
動画の中ではにこやかに話しをされている伊藤氏だが、くだんの書籍の最後のページではやや悲観的な文章で締めくくっている。
「敗戦後、アメリカの保護にひたすらしがみついてきた依存国家日本のレクイエム(鎮魂歌)が聴けるのも、もうすぐである…」
筆者はレクイエムは聴きたくない。その為にこのブログも書いている。
日本人一人ひとりが自分のこととして主体的になり、日本の未来を明るくする為に何ができるのかを考え、行動するのは今しかないのである。